sikkouyakuin1118’s blog

薬局実務実習の進め方2019

薬局実務実習11週間(55日)のスケジュールを考える

日々のスケジュールの変更点

 

 今までの実務実習では、90分を一区切りにして毎日およそ5つの項目を「学習目標」に設定して学校の授業のように進行していましたが、新モデルコアカリキュラムで行う実務実習ではこのスタイルがなくなりました。現場に合わせた形になったので、指導薬剤師としてはスケジュールを毎日立てる必要がなくなって楽になります。

 

 そして今年からの薬局実務実習で大切にしていただきたいのが「実践的な”臨床対応能力”を身に付けるべく、”参加・体験型”の実習」を目指してほしいという事です。

 

 薬局の薬剤師の業務は、来局した患者様をお迎えし、その目的を把握するところから始まります。その中で例えば、医療機関にかかり処方箋を持参した患者様であれば、処方箋に基づいて調剤・監査をしてその調剤した医薬品を患者様が安心・安全に服用出来る為の説明(服薬カウンセリング)をして、お薬をお渡しする。そして、服用した後にその健康状態がどのように変化をしたのか確認をしながら継続的に患者様に寄り添いQOLの向上に務める事です。この一連の流れの中で、実習生が実際に参加したときに薬剤師と同じレベルまで到達できるような11週間であれば実務実習は成功という事になると思います。

 しかし、当たり前ですが初日から薬剤師と同じレベルの臨床対応能力で薬局業務に参加できるわけではありませんので、実際に参加・体験を繰り返すことでその能力の『質』が上がっていくことを実務実習で身に付けていきます。多岐にわたる薬剤師の業務を習得するために「学習成果基盤型教育(OBE)」の概念に乗っ取って教育するためには今までのスケジュールでは教育しづらいため新しいスケジュールの構築が必要になったということになります。

 プロセス基盤型教育では、学習者の能力を「知識」、「技能」、「態度」に分けてこういったことを教えればこういったことができるようになるだろうという発想でした。しかしながら、実際に行為、遂行(パフォーマンス)をさせると、知識はある(教えた)はずだが患者様の前では思うようにしゃべれない(アウトプットできない)とか、言っていることは正しいけど声が小さくて患者様には伝わっていないだろう、などという事が少なからず起こっていなかったでしょうか?

すなわち、知識はあっても態度が良くない(充分でない)とか、患者様の評判はいいが知識が乏しいとか何らかの隔たりがあり充分な立ち居振る舞い(パフォーマンス)ができていないことがあるのではないでしょうか。

 そこで学習成果基盤型教育(OBE)では、このようなギャップを改善するために学習者の能力を臨床対応能力としてひとまとめに「パフォーマンス」として設定・測定・評価することになりました。例えば、患者様が来局されたときに「処方箋を受け付ける」というパフォーマンスは薬剤師の臨床対応能力の一つです。無言で受け付けてもそれは受け付けたことになりますが、レベルが上がると笑顔や気持ちのいい声のトーンを意識して、さらに患者様の表情に合わせて気の利いた一言をかけながら受け付けることができるようになります。このように高い質で「処方箋を受け付ける」にはどのような環境(方略)を与えて、何回くらいトライすれば身につくようになるかを考えてスケジューリングするのが今回の実務実習では重要になってくるという事です。

 

では、新しい実務実習ではどのような臨床対応能力を身に付けることになっているでしょうか。それが以下に挙げられた大きく5つの項目です。

 

 薬局実務実習で身に付ける臨床対応能力

 

 (1)薬学臨床の基礎

 (2)処方箋に基づく調剤

 (3)薬物療法の実践

 (4)チーム医療への参画

 (5)地域の保健・医療・福祉への参画

 

 大きな項目としてこの5つの臨床対応能力を身に付けることとなります。 

 

 11週間のうち最初の数週間は(1)~(3)の能力を並行して参加・体験しながら身に付けていきます。何回も繰り返し体験することで、質の高い能力が身についていくことを想像します。そして(1)~(3)の能力があるレベルまで到達したと指導薬剤師が感じたら、その能力を応用して(4)~(5)の能力を身に付けていくように心がけると実務実習がうまく進んでいくと思います。

 また(1)~(3)に関しては、概略評価を行うように薬学実務実習ガイドラインに記載がありますので、ガイドラインを参考に実習生の臨床対応能力の質について簡単に触れておきたいと思います。概略評価とは、ガイドラインでは4段階になっている薬学生の能力の質を段階的に評価する表で、アメリカ大学・カレッジ協会のVALUEルーブリックを元に構成されています。同じ能力でもその質が違えば評価も変わりますので、先ほど出てきた「処方箋を受け付ける」臨床対応能力についてどのような段階的な評価ができるかを例示します。

 

 「処方箋を受け付ける」能力(例示)

 

 第1段階;患者様から処方箋を受け付ける。

 第2段階;こちらから挨拶をして、笑顔で処方箋を受け付ける。

 第3段階;挨拶をして笑顔で処方箋を受けつけるとともに、お薬手帳の有無も確認する。

 第4段階;挨拶をして処方箋を受け付けると同時に、お薬手帳を確認しさらに相手の顔色から今日の体調の是非を判断し、現在の待ち時間をお伝えしながら待合室のソファーにスムーズに誘導する。

 

 例えば、こんな感じをイメージするのはいかがでしょうか?

実務実習で実際に薬学生に処方箋の受付業務を体験させると、初日は緊張もしているので「第1段階」をクリアしてほっとしているのではないでしょうか。ここで指導薬剤師が評価をして次に同じ体験をさせるときにはこんなことに気を付けてやってみましょうをアドバイス(指導)をすると、「第2段階」の質で受付業務を行うようになっていくのではないでしょうか。このように同じ体験を繰り返し行うことでその能力の質が上がっていくのが実務実習の本物で学ぶ意義だと考えます。

 この評価表からも分かるように実務実習期間中には、薬学生には「第4段階」を求めるのではなく「第3段階」を目標に実務実習に取り組んでもらうように指導薬剤師は心がけます。学生によっては「第4段階」まで到達する項目も当然あると思われますが、実務実習の目標到達点としては「第3段階」を合格と考えます。

 

 今回は、11週間のスケジュールを立てるのに必要なパフォーマンス(学習目標)と評価について記載しました。

 次回は、実際にどのようなスケジュールが必要(妥当)なのかを考えていきたいと思います!