精神神経疾患と国家試験 3
精神神経疾患に関する薬剤師国家試験の過去問です。
以下が、実務実習で実習生に体験させたい症例となります。
【精神神経疾患】
- 症状精神病
- アルコール依存症
- 気分障害(うつ病、躁うつ病、双極性障害)
- 統合失調症
- 不安障害(例えばパニック障害)
- 身体表現性障害、ストレス関連障害
- 注意欠陥多動性障害(ADHD)
- 入眠障害(不眠症)
- てんかん
- 認知症
- 摂食障害
- せん妄、幻覚症
- ナルコレプシー(Narcolepsy)
- 薬物依存症
- 睡眠覚醒リズム障害
薬局だけでは、体験できない症例も施設によってはあると思いますので体験できない症例に関しては、連携ノートなどで病院実習の施設に引き継ぎをしておくといいと思います。
また、臨床現場においては「On-the-job training」によって実習生に臨床能力を習得してもらうことが目的ですが、「On-the-job training」だけでは経験できない症例も当然あると思いますのでそのような場合は、「Off-the-job training」で補強することも必要です。過去の薬剤師国家試験を参考にして、ただ問題を解くのではなく、このような症例に対してはどのようなパフォーマンス(知識・技能・態度)が必要なのかを実習生と討議して能力を深めてくのに役に立つのではないでしょうか。
【第103回薬剤師国家試験】
問 154
統合失調症治療薬に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。
1 ハロペリドールは、黒質‐線条体ドパミン神経系を介する過剰な神経伝達を抑
制することで陽性症状を改善する。
2 クエチアピンは、セロトニン 5‐HT₂A 受容体、ヒスタミン H₁受容体及びアドレ
ナリン a₁ 受容体を遮断する。
3 アリピプラゾールは、ドパミン D₂受容体及びセロトニン 5‐HT₁A 受容体に対し
て部分刺激薬として作用する。
4 パリペリドンは、主に大脳皮質のセロトニン 5‐HT₂A 受容体を刺激することで
陰性症状を改善する。
5 クロルプロマジンは、腹側被蓋野₋側坐核ドパミン神経を介する過剰な神経伝
達を抑制することで制吐作用を示す。
正解;2 3
ハロペリドールは、ドパミン神経系を介して過剰な神経伝達を抑制して陽性症状を改善しますが、黒質‐線条体ドパミン神経系ではなく、中脳辺縁系ドパミン受容体を遮断することにより統合失調症、躁病を改善する。黒質‐線条体ドパミン神経系にも作用してしまうため副作用である錐体外路症状の副作用が懸念される。
パリペリドンは、リスペリドンの代謝活性物質であり、セロトニン・ドパミン拮抗薬である。
クロルプロマジンは、フェノチアジン誘導体系の統合失調症薬であり延髄第四脳室底にある化学受容引金帯(CTZ;Chemoreceptor trigger zone)のドパミンD₂受容体を遮断して制吐作用を発揮する。
問 185
てんかんとその治療に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。
1 脳に器質的な損傷があるために起こる症候性てんかんと、脳に明確な障害がな
く原因が特定できない特発性てんかんがある。
2 単純部分発作は意識消失を起こす。
3 欠神発作は、身体の一部が瞬間的に強く収縮する発作で、意識障害を認める。
4 てんかんの診断には、脳波検査よりも CT や MRI などによる頭部画像検査が
有用である。
5 原発性てんかん患者において抗てんかん薬を中止するには、 2年間以上の発作
消失が必要である。
正解;1 5
てんかんの発作型分類と治療に関する問題です。
痙攣を起こす原因(大脳の神経細胞の異常な電気的興奮を起こす原因)により、原因となる疾患が存在する症候性てんかん(続発性てんかん、二次性てんかん)と、てんかんの原因となる疾患が存在しない特発性てんかん(真性てんかん、原発性てんかん、一次性てんかん)に分けられる。
大きく分類すると、部分発作と全般性発作がある。
部分発作
単純部分発作;意識障害無し。身体の一部の運動発作、感覚発作、知覚発作
精神発作などがある。
複雑部分発作;意識混濁あり。精神運動発作、自動症など。
二次性全般化;全身けいれん発作に進展する。
全般性発作
欠神発作;短時間の意識障害だけが見られるもの。
ミオクロニー発作;両側四肢の筋痙攣を伴う(ミオクローヌス)
強直性、間代性および強直間代発作(大発作);意識消失、四肢の強直、痙攣
脱力発作;意識消失と脱力。小児の点頭てんかんなどがある。
問 186
8歳男児。学校の授業中に先生の話を聞いていない。着席しても落ち着かず、
離席もあり、集中できず、ミスが多く、忘れっぽい。休み時間に大声を出したり、
動き回ったりし、順番を待つことができない。知能は正常であるが周囲の子ども達
となじめず、親が心配して病院を受診させたところ、注意欠陥・多動性障害と診断
された。
この疾患の病態及び薬物療法に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選
べ。
1 メチルフェニデート塩酸塩徐放錠が使用できる。
2 アトモキセチン塩酸塩は他の治療薬に比べて依存性が強い。
3 環境調節などの配慮の必要はない。
4 主症状には、不注意、多動性、衝動性の 3 つがある。
5 主症状は成人期以降に消失する。
正解;1 4
アトモキセチン塩酸塩(ストラテラ)は他の治療薬に比べて依存性が強いわけではありません。むしろメチルフェニデート(コンサータ)よりは依存性が低いと考えられています。 また、主症状は成人期以降も続くことがあります。
問 230−231
65 歳男性。長期にわたるアルコール依存症と診断されて、入院治療中。食事が摂れず栄養不良の状態であったが、さらに担当看護師より、眼球運動の異常やふらつき、意識障害が確認されるようになったと報告があった。この患者の症状の原因としてビタミン欠乏の可能性が考えられた。
問 230(実務)
この患者で欠乏し、症状の原因となっている可能性が最も高いビタミンはどれか。1つ選べ。
1 ビタミン B1
2 ビタミン B2
3 ビタミン B6
4 ビタミン B12
5 ビタミン E
正解;1
アルコール依存症とビタミンに関する問題です。
アルコールの過剰摂取により消費されるビタミンは、ビタミンB₁が有名です。アルコールを代謝する際にビタミンB₁が使用されることと、尿中に排泄が促進されることが知られています。
ビタミンB₁の欠乏症として、末梢神経症状として脚気、中枢神経症状としてウェルニッケ・コルサコフ症候群があります。
脚気の自覚症状として、全身の倦怠感、動悸、手足の浮腫やしびれ感、感覚異常、筋力低下、腱反射消失や脚気心(かっけしん)と呼ばれる心不全が起こります。
ウェルニッケ脳症は中枢神経の疾患で、眼球運動の麻痺や歩行運動の失調を伴い、慢性化するとコルサコフ症という記銘力の低下、見当識障害、健忘症や作話を主症状とした精神疾患に移行します。
問 231(衛生)
この患者の症状の原因となっている可能性が最も高いビタミンに関する記述のう
ち、正しいのはどれか。2つ選べ。
1 緑黄色野菜に多く含まれる。
2 アミノ基転移反応の補酵素として働く。
3 生体内でリン酸化されてから、糖質を代謝する酵素の補酵素として働く。
4 さらに欠乏すると、ペラグラ様皮膚炎を発症することがある。
5 多量に摂取しても尿中に排泄されるため、重篤な過剰症は特に知られていな
い。
正解;3 5
緑黄色野菜に多く含まれるビタミンはビタミンA、ビタミンC、ビタミンKです。
ビタミンB₁は、豚肉やチーズ、豆類に多く含まれます。(淡黄色野菜に比較すると緑黄色野菜にはビタミンB₁が多く含まれるという考え方もあります。)
ペラグラ様皮膚炎は、ビタミンB₆の欠乏症でありビタミンB₆がアミノ基転移反応の補酵素となる。
問 294−295
26 歳男性。統合失調症の診断を受け、ハロペリドールを処方されていた。
手の震え、体のこわばりやアカシジア(静座不能)などの副作用の出現により服薬
を自己中断するため、入退院を繰り返している。 3ヶ月前から以下の処方に変更と
なった。
(処方)
オランザピン錠 10mg 1 回 1 錠( 1 日 1 錠)
1日 1 回 就寝前 7 日分
3ヶ月前の検査データ: 体重 68kg、空腹時血糖 110 mg/dL、LDL‐C(低密度リポ
タンパク質コレステロール)130 mg/dL、HDL‐C(高密度リポタンパク質コレステロール)47 mg/dL、TG(トリグリセリド)120 mg/dL
現在、患者の精神状態は安定しているが、食欲が亢進し、栄養指導しても過食にな
ることが多い。
現在の検査データ: 体重 76kg、空腹時血糖 110 mg/dL、LDL‐C 138mg/dL、
HDL‐C 42 mg/dL、TG 150mg/dL
服薬指導の際に、患者から「体重増加は困るので、薬を変えて欲しい」との訴えが
あった。
問 294(病態・薬物治療)
この患者の病態及び治療に関する記述のうち、正しいのはどれか。1つ選べ。
1 オランザピンの服用により糖尿病を発症している。
2 錐体外路症状は、漏斗下垂体のドパミン神経の過剰興奮によって起こる。
3 オランザピンはハロペリドールよりも錐体外路症状を起こしにくい。
4 オランザピンによる悪性症候群の発症はない。
5 体重増加はオランザピンに特徴的な副作用であり、他の抗精神病薬では認めな
い。
正解;3
オランザピンの重大な副作用に糖尿病があるが、この症例では糖尿病は発症していません。また、オランザピンの重大な副作用に悪性症候群の報告があります。
錐体外路症状は、黒質‐線条体系ドパミン受容体の遮断により起こる副作用であり過剰興奮により発症するものではありません。また、漏斗下垂体のドパミン受容体を遮断すると高プロラクチン血症や体重増加、月経障害等の内分泌障害が起こります。
体重増加の副作用は抗精神病薬の一般的な副作用として報告がありますので、オランザピンの特徴的な副作用ではありません。
問 295(実務)
薬剤師が患者の訴えを医師に伝えたところ、代替薬を検討することになった。副作用発現の観点から推奨できる薬物として、最も適切なのはどれか。1つ選べ。
1 クロルプロマジン塩酸塩
2 クロザピン
3 クエチアピンフマル酸塩
4 スルピリド
5 アリピプラゾール
正解;5
この症例では、ハロペリドールにより錐体外路症状の副作用、オランザピンにより体重増加の副作用を発症している。
抗精神病薬は、定型抗精神病薬と非定型抗精神病薬に分類されるが、定型型に比べて非定型抗精神病薬のほうが錐体外路系の副作用が少ないことが知られています。
選択肢の中で、非定型に分類されるのが2クロザピン 3クエチアピン 5アリピプラゾールであり、さらに作用機序が異なるアリピプラゾールが体重増加を来しにくいと考えられる。クロザピン、クエチアピン、オランザピンは同じ分類に属しています。
問 339
28歳男性。双極性障害のために炭酸リチウム錠とバルプロ酸ナトリウム徐放錠で治療を行っている。今回、うつ症状の改善がみられないため、主治医よりラモトリギン錠を追加したいと薬剤部に相談があった。
バルプロ酸ナトリウム徐放錠とラモトリギン錠の併用に関する情報提供の内容について適切なのはどれか。1つ選べ。
1 ラモトリギン錠はバルプロ酸ナトリウム徐放錠と併用禁忌である。
2 両剤の併用で血糖値上昇が考えられるので、定期的な検査を実施する。
3 併用開始後 2週間までは、ラモトリギン錠を隔日投与する。
4 両剤の併用で血中アンモニア濃度の上昇が考えられるので、定期的な検査を実
施する。
5 両剤の併用でラモトリギンの半減期が短くなるため、投与量を漸増する。
正解;3
ラモトリギンは主としてグルクロン酸転移酵素(主にUGT1A4)で代謝されるため、同じ代謝経路で代謝されるバルプロ酸ナトリウムと併用する場合は注意が必要です。併用によりラモトリギンの消失半減期が約2倍に延長するという報告があり、皮膚粘膜眼症候群及び中毒性表皮壊死症などの重篤な皮膚障害が表れ、死亡例も報告されています。
また、両剤の併用による血糖値上昇や血中アンモニア濃度の上昇の報告は今のところありません。