精神神経疾患と国家試験
今回は、代表的な8疾患の「精神神経疾患」に関する過去の国家試験問題を考えていきたいと思います。
【精神神経疾患】
- 症状精神病
- アルコール依存症
- 気分障害(うつ病、躁うつ病、双極性障害)
- 統合失調症
- 不安障害(例えばパニック障害)
- 身体表現性障害、ストレス関連障害
- 注意欠陥多動性障害(ADHD)
- 入眠障害(不眠症)
- てんかん
- 認知症
- 摂食障害
- せん妄、幻覚症
- ナルコレプシー(Narcolepsy)
- 薬物依存症
- 睡眠覚醒リズム障害
以上が、具体例として例示されていますのでこれに関連した問題を薬局実務実習で習得する知識レベルの参考にしたいと思います。
【第100回薬剤師国家試験】
問155
催眠・鎮静作用を示す薬物に関する記述のうち、正しいのはどれか。 2つ選べ。
1 フルニトラゼパムは、少量で rapid eye movement(REM)睡眠を強く
抑制する。
2 レボメプロマジンは、γ-アミノ酪酸( GABA)A受容体の GABA結合部位に作用
する。
3 ジフェンヒドラミンは、中枢のヒスタミン H₁受容体を遮断する。
4 トリアゾラムは、細胞内へのCl⁻流入を促進することで、
神経の興奮を抑制する。
5 フェノバルビタールは、グルタミン酸 NMDA受容体を刺激する。
正解;3 4
フルニトラゼパム等のベンゾジアゼピン系薬剤は、GABAA受容体のベンゾジアゼピン受容体に結合しGABAの受容体への親和性を増強する。それにより、GABAA受容体に内蔵されているCl⁻チャネルを開口させて、神経細胞の過分極を起こし神経の興奮を抑制することにより睡眠作用を起こす。
また、ベンゾジアゼピン系の睡眠導入剤は、深い睡眠(Non REM睡眠)を強く抑制しREM睡眠を減少させる。
1に記載がある、少量でREM睡眠を強く抑制する作用は抗うつ薬の適応外使用の事を言っているものと思われる。少量の三環系抗うつ薬(クロルプラミン、イミプラミン)やSSRI(パロキセチン、フルボキサミン)、SNRI(ミルナシプラン)等はREM睡眠を強力に抑制する。
2のレボメプロマジンは、フェノチアジン系抗精神病薬であり、ドパミンD₂受容体遮断作用を有する薬剤でGABA受容体には作用しない。
5のフェノバルビタールはバルビツール酸系の抗てんかん薬であり、GABA受容体のバツビツール酸系受容体に結合する薬剤で、グルタミン酸 NMDA受容体を刺激する作用はありません。NMDA受容体を抑制する薬剤はアルツハイマー型認知症治療薬であるメマンチン塩酸塩が考えられる。
問 156
精神疾患治療薬に関する記述のうち、正しいのはどれか。 2つ選べ。
1 パロキセチンは、セロトニン 5-HT₃受容体を遮断する。
2 トラゾドンは、セロトニン 5-HT₂A 受容体を刺激する。
3 タンドスピロンは、セロトニン 5-HT₁A受容体を刺激する。
4 ヒドロキシジンは、セロトニンの再取り込みを阻害する。
5 ミルナシプランは、セロトニン及びノルアドレナリンの再取り込みを阻害する。
正解;3 5
セロトニン受容体に作用する薬剤に関する問題です。セロトニン5‐HT受容体はサブタイプが多く存在する受容体ですので、整理しておくといいですね。
1のパロキセチンは、SSRIでありセロトニンの再取り込みを抑制する薬剤であり受容体を遮断する作用はありません。
2のトラゾドンはセロトニン5⁻HT₂A受容体を遮断する薬剤であり、刺激する作用はありません。
4のヒドロキシジン(アタラックス)は抗ヒスタミン薬であり、ヒスタミンH1受容体に対しては強力な拮抗作用を有する薬剤である。
その他、タンドスピロン(5-HT₁A刺激)は抗不安薬,モサプリド(5‐HT₄刺激)は消化管機能改善薬,スマトリプタン(5‐HT₁B/₁D刺激)は片頭痛薬、サルポグレラート(5‐HT₂拮抗)は慢性動脈閉塞改善薬として使用されている。
問252-253
28歳女性。統合失調症と診断され、今回、初めて以下の薬剤が処方された。
(処方1)
リスペリドン口腔内崩壊錠 1mg 1回1錠(1日2錠)
1日2回 朝夕食後 14日分
(処方2)
ブロチゾラム口腔内崩壊錠 0.25mg 1回1錠(1日1錠)
1日1回 就寝前 14日分
問 252(薬理)
処方された薬物に関する記述として正しいのはどれか。2 つ選べ。
1 γ-アミノ酪酸 GABAA受容体の働きを高め、睡眠を誘発する。
2 ドパミン D₂受容体を刺激し、運動機能の低下をもたらすことがある。
3 セロトニン 5-HT₂受容体を遮断し、統合失調症の陰性症状を改善する。
4 モノアミン酸化酵素Bを阻害し、下垂体からのプロラクチン遊離を促進する。
5 セロトニン 5-HT₁A受容体を遮断して、抗不安作用を示す。
正解;1 3
リスペリドンは、セロトニン・ドパミン拮抗薬として作用して効果を発揮します。
ブロチゾラムは、中期作用型のベンゾジアゼピン系薬剤でGABA受容体のベンゾジアゼピン受容体に作用して睡眠作用を発揮する薬剤です。
2のドパミンD₂受容体を刺激すると運動機能は亢進される。パーキンソン病治療薬の作用機序であり記述が間違っています。
4のMAO‐B阻害剤はセレギリンの作用機序であり、ドパミン量が増加すると下垂体からのプロラクチン遊離は抑制される。
5のセロトニン5‐HT₁A受容体は刺激することで抗不安作用を発揮すると考えられているので、記述が誤りである。
問 253(実務)
この患者への服薬指導および処方薬に関する説明の内容として、適切でないのは
どれか。 1つ選べ。
1 月経不順となることがあります。
2 口渇が現れることがあります。
3 服用中は自動車の運転など危険を伴う作業をしないようにしてください。
4 リスペリドン口腔内崩壊錠は、通常、徐々に減量する薬剤です。
5 ブロチゾラム口腔内崩壊錠は、服用後に一時的な記憶の抜け落ちを起こすこと
のある薬剤です。
正解;4
リスペリドン口腔内崩壊錠は、通常、徐々に増量する薬剤である。
問294-295
84歳女性。女性の家族が近所の保険薬局に処方せんを持参した。最近になって女性の記銘力低下(物忘れ)が気になり、脳神経外科を受診したとのことであった。医師により軽度のアルツハイマー型認知症と診断され、今回が初回投薬となった。その処方内容は次の通りであった。
(処方1)
ドネペジル塩酸塩錠 5mg 1回1錠(1日1錠)
1日1回 朝食後 7日分
(処方2)
レバミピド錠 100mg 1回1錠(1日3錠)
1日3回 朝昼夕食後 7日分
問 294(実務)
薬剤師が、この処方せんを確認して調剤を行う場合、その対応として最も適切なのはどれか。1 つ選べ。なお、ドネペジル塩酸塩錠は、3mg、5mg、10mg 錠が製品化されている。
1 ドネペジル塩酸塩錠は 3mg から開始するので、医師に疑義照会した。
2 ドネペジル塩酸塩錠は 5mg が維持量なので、問題はないと判断した。
3 ドネペジル塩酸塩錠は初回負荷量として 10mg を投与するので、医師に疑義照
会した。
4 ドネペジル塩酸塩錠とレバミピド錠の併用は禁忌なので、医師に疑義照会した。
5 レバミピド錠は中枢神経系の副作用軽減を目的とすることを説明した。
正解;1
ドネペジルの適正使用に関する問題です。前問の難易度と比べると非常に簡単な問題ですが、添付文書をしっかり把握しておくことが実習生に求められていることがわかる問題です。
問 295(病態・薬物治療)
アルツハイマー型認知症の病因・病態として、正しいのはどれか。 2つ選べ。
1 脳内コリン作動性神経系の著しい亢進を認める。
2 前頭葉を中心として全般的脳萎縮を認める。
3 アミロイド βオリゴマーが、神経細胞周囲に蓄積する。
4 大脳皮質を中心に、老人斑と神経原線維変化を認める。
5 中核症状として徘徊がある。
正解;3 4
アルツハイマー型認知症では、脳内コリン作動性神経系の著しい低下を認める疾患であり、海馬や側頭葉を中心とした全般的な脳萎縮を認めることが多い。
徘徊は、周辺症状であり中核症状(記憶障害、見当識障害、失語など)ではありません。
精神神経疾患に関する国家試験の過去問はまだまだたくさんありますので、次回以降にもまとめていきたいと思います。結構、深い知識が必要ですね。指導薬剤師も忘れている部分もあると思いますので、しっかり復習しておきましょう(笑)。