49日目 心疾患と国家試験
49日目 第10週4日目
代表的な8疾患の「心疾患」に関する薬剤師国家試験の過去問をピックアップします。毎年、確実に出題される分野ですので実習でしっかり知識を習得して服薬指導にも役立ててほしい疾患です。
【第100回薬剤師国家試験】
問238-239
41歳男性。就寝中に胸部圧迫感が出現。近医で検査の結果、冠攣縮性狭心症と診断され、薬物療法が開始された。患者情報は以下の通りである。
血圧 130/75mmHg、心拍数 58回/分、呼吸数 14回/分
喫煙 30本/日、飲酒 ビール 350mL×3本/日、営業職で残業が多い
(処方)
ニフェジピン徐放錠 20mg(24時間持続) 1日1回(1回1錠)
就寝前 14日分
速効性ニトログリセリンエアゾール剤 0.3mg 1本
胸痛発作時1回1噴霧
問 238(実務)
薬剤交付時に患者に伝えるべき注意事項として、適切なのはどれか。 2つ選べ。
1 内服薬は、副作用として低血糖を起こしやすい。
2 内服薬の効果が現れにくくなるので、納豆を摂取することは避ける。
3 内服薬は、症状が改善しても自己判断での服薬の中断はしない。
4 エアゾール剤は、発作時の痛みの程度に応じて噴霧回数を調節する。
5 エアゾール剤は、噴霧孔を上にして垂直に立てて持ち、噴霧孔をできるだけ口
に近づけて噴霧する。
正解;3 5
ニフェジピンは肝薬物代謝酵素CYP3A4で主に代謝を受けるので気を付けるべき食品は、グレープフルーツジュースである。
エアゾールの使用方法は、5の通りであり噴霧回数は調整しない。
問 239(衛生)
冠攣縮性狭心症の重大な危険因子として喫煙がある。我が国における喫煙及び喫
煙対策に関する記述のうち、正しいのはどれか。2 つ選べ。
1 2000年以降の日本人男性の喫煙率は低下しており、現在、欧米諸国に比べかな
り低い。
2 環境基本法では、病院の管理者に、利用者の受動喫煙を防止するために必要な
措置を講ずるように努めることを義務づけている。
3 2013年度から開始された「21世紀の国民健康づくり運動
(健康日本 21(第2次))」で、未成年の喫煙率0%をはじめ、
喫煙に関する目標が設定されている。
4 特定保健指導の対象者の選定・階層化には、喫煙歴の有無も加味される。
5 医師によるニコチン依存症患者への禁煙指導は、医療保険給付の対象外である。
正解;3 4
日本人男性の喫煙率は低下しているが現在、欧米諸国に比べるとまだ高い。
環境基本法ではなく健康増進法(平成14年制定)で病院の管理者に、利用者の受動喫煙を防止するために必要な措置を講ずるように努めることを義務づけている。
禁煙外来は2006年より、保険診療が可能となっています(届出が必要)。
問254-255
64歳男性。不安定狭心症のため、PCI(経皮的冠動脈インターベンション)を受けた。その後の治療薬として新たに以下の薬剤が処方された。
(処方1)
アスピリン腸溶錠 100mg 1回1錠(1日1錠)
1日1回 朝食後 14日分
(処方2)
チクロピジン塩酸塩錠 100mg 1回1錠(1日2錠)
1日2回 朝夕食後 14日分
(処方3)
ロスバスタチンカルシウム錠 2.5mg 1回1錠(1日1錠)
1日1回 朝食後 14日分
問 254(薬理)
処方された薬剤に関する記述のうち、正しいのはどれか。 2つ選べ。
1 処方された用量のアスピリンは、血管内皮細胞のプロスタグランジン I₂生成よ
りも、血小板のトロンボキサン A₂生成をより強く阻害する。
2 アスピリンは、ロスバスタチンによる筋肉痛を緩和する目的で処方されている。
3 チクロピジンの活性代謝物が遮断する ADPの P2Y₁₂受容体は、Gqタンパク
質共役型受容体である。
4 チクロピジンの副作用として、血栓性血小板減少性紫斑病、無顆粒球症及び重
篤な肝障害がある。
5 ロスバスタチンは、3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル-CoA(HMG-CoA)の
生合成を阻害し、血清中の低比重リポタンパク質(LDL)量を減少させる。
正解;1 4
3チクロピジンの活性代謝物が遮断するADPのP2Y₁₂受容体は、Giタンパク質共役型受容体である。
5HMG₋CoAの生合成を阻害するのではなくHMG₋CoA還元酵素を阻害する事により肝臓におけるコレステロールの生合成を阻害する。
問 255(実務)
この患者への説明および指導の内容として、適切なのはどれか。 2つ選べ。
1 アスピリン腸溶錠は、術後の経過が良ければ、一週間程度で中止します。
2 チクロピジン塩酸塩錠には、狭くなった血管を拡げる作用があります。
3 定期的に血液検査を必要とする薬剤が処方されていますので、2週間後に受診
してください。
4 筋肉痛や脱力感が起こることがありますが、一時的なものなので心配あり
ません。
5 出血しやすくなるので、歯肉や鼻などからの出血があれば受診してください。
正解;3 5
チクロピジンは、重大な副作用による死亡例が報告されたため投与開始から2か月間は原則として2週間に1回、血液検査を実施しなければならない。
ロスバスタチンの副作用に、横紋筋融解症がありその初期症状に筋肉痛、脱力、赤色尿などがあるので、そのような症状が出れば直ちに受診するように説明する必要があります。
【第101回薬剤師国家試験】
問 292-293
65歳女性。高血圧症治療のために通院している病院で、慢性心不全(NYHA分類Ⅰ度)と診断された。本日の受診時にむくみなどの自覚症状はないが、心臓超音波検査では左室機能が低下していると指摘された。
血圧:132/80mmHg、脈拍:78回/分整
副作用歴:リシノプリルによる空咳
薬歴:半年前より テルミサルタン錠 40mg 1日1回
医師は薬剤を追加するに際し、薬剤師に相談した。
問 292(実務)
この患者に追加する心不全治療薬として、最も推奨される薬物はどれか。1つ選べ。
1 ジゴキシン
2 フロセミド
3 カプトプリル
4 カルベジロール
5 イソプロテレノール
正解;4
心不全は、「慢性・急性心不全診療ガイドライン」に沿って治療がなされる。
【NYHA心機能分類】NYHA心 機 能 分 類 と は ニューヨーク 心 臓 協 会(New York Heart Association)が作成し,身体活動による自覚症状の程度により心疾患の重症度を分類したもので,心不全における重症度分類として広く用いられている.II度はさらにIIs度:身体活動に軽度制限のある場合,IIm度:身体活動に中等度制限のある場合に分類される.
A 器質的心疾患のないリスクステージ
B 器質的心疾患のあるリスクステージ
C 心不全ステージ
NYHA分類
Ⅰ 心疾患はあるが身体活動に制限はない.
日常的な身体活動では著しい疲労,動悸,
呼吸困難あるいは狭心痛を生じない.
Ⅱ 軽度ないし中等度の身体活動の制限があ
る.安静時には無症状.
日常的な身体活動で疲労,動悸,呼吸困
難あるいは狭心痛を生じる.
Ⅲ 高度な身体活動の制限がある.安静時に
は無症状.
日常的な身体活動以下の労作で疲労,動
悸,呼吸困難あるいは狭心痛を生じる.
Ⅳ 心疾患のためいかなる身体活動も制限さ
れる.
心不全症状や狭心痛が安静時にも存在す
る.わずかな労作でこれらの症状は増悪
する.
D 治療抵抗性心不全ステージ
Ⅲ 高度な身体活動の制限がある.安静時に
は無症状.
日常的な身体活動以下の労作で疲労,動
悸,呼吸困難あるいは狭心痛を生じる.
Ⅳ 心疾患のためいかなる身体活動も制限さ
れる.
心不全症状や狭心痛が安静時にも存在す
る.わずかな労作でこれらの症状は増悪
する.
ACE阻害薬/ARB
+β遮断薬
+MRA(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(エプレレノン、スピロノラクトン))
利尿薬
必要に応じて
ジギタリス
血管拡張薬
ICD(植込み型除細動器)/CRT(心臓再同期療法)
運動療法
問 293(病態・薬物治療)
前問で推奨される追加薬物に関して適切なのはどれか。 1つ選べ。
1 導入直後から心筋の収縮力が改善する。
2 治療薬物モニタリング(TDM)の対象薬物である。
3 導入時に高用量の負荷投与を行い、続けて維持量を投与する。
4 導入時に心不全が悪化することがある。
5 レニンの分泌を促進する。
正解;4
カルベジロールはαβ受容体遮断薬であり、α1受容体遮断作用により血管を拡張し、β1受容体遮断作用により心機能を抑制するため心臓への負荷を軽減して、慢性心不全の予後を改善すると考えられる。
導入時には、一時的に心機能を抑制することによる心不全の悪化があるため少量から投与を開始して徐々に増量して維持量を決定する。
また、β1受容体遮断作用によりレニンの分泌を抑制する。
【第102回薬剤師国家試験】
問 290-291
62歳男性。1ヶ月ほど前から息切れ、呼吸困難などの心不全症状が出現し、アルコール性心筋症との診断を受け、以下の処方により加療中である。薬剤師が現在の症状を確認すると「最近は呼吸が苦しくなることが多く、家の中で座っていれば問題ないが、少し散歩するだけでも息切れがする」との訴えがあった。
既往歴:高血圧
飲酒歴:心不全症状が出現するまで 20年間の大量の飲酒歴があり、
禁酒を指導されたが、現在も機会飲酒。
検査データ:左室駆出率 23%、下肢浮腫(+)、
Na140mEq/L、K 3.6mEq/L、Cl105mEq/L、SCr1.0mg/dL、
血圧 123/72mmHg、心拍数 62bpm(洞調律)
(処方)
1) エナラプリルマレイン酸塩錠 10mg 1回1錠(1日1錠)
スピロノラクトン錠 25mg 1回1錠(1日1錠)
1日1回 朝食後 14日分
2) カルベジロール錠 2.5mg 1回1錠(1日2錠)
1日2回 朝夕食後 14日分
3) フロセミド錠 40mg 1回1錠(1日2錠)
1日2回 朝昼食後 14日分
問 290(病態・薬物治療)
この患者の病態に関する記述のうち、正しいのはどれか。 2つ選べ。
1 適切な治療を施しても生存率が低く予後不良である。
2 NYHA機能分類 Ⅲ度(中等度~重症)の心不全症状を呈している。
3 肥大型心筋症の病態を呈している。
4 カリウムの摂取制限が推奨される。
5 治療の基本に断酒がある。
正解;2 5
アルコール性心筋症は、適切な治療を施せば生存率が高く、予後は良好である。また、アルコール性心筋症では、肥大型心筋症ではなく拡張型心筋症の病態を呈する。
問 291(実務)
薬剤師は、現在の病態から、患者の薬物療法に関するアセスメントを行い、今後のプランを考えた。追加を推奨する薬剤として最も適切なのはどれか。1 つ選べ。
1 アロプリノール
2 エポエチンアルファ
3 アテノロール
4 カンデサルタンシレキセチル
5 ジゴキシン
正解;5
患者は既に心不全治療でACE阻害剤、MRA、β遮断薬、利尿薬を服用中であるため
ジキタリス製剤を追加するのが妥当である。
ACE阻害薬/ARB
+β遮断薬
+MRA(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(エプレレノン、スピロノラクトン))
利尿薬
必要に応じて
ジギタリス
血管拡張薬
ICD(植込み型除細動器)/CRT(心臓再同期療法)
運動療法
【第103回薬剤師国家試験】
問 272−273
76歳男性。 1年前より心房細動にて内科を受診してワルファリンを服用しており、その処方は以下のとおりであった。朝食後に忘れず服用していること、他科受診及び併用薬はないこと、納豆は食べていないことを薬剤の交付時に確認していた。
(処方)
ワルファリン K 錠 1mg 1 回 2 錠( 1 日 2 錠)
1 日 1 回 朝食後 56 日分
本日、本人が妻と一緒に処方箋を持って薬局を訪れた。処方箋を確認したところ、
1 回 2錠から 1 回 4 錠に増量となっていた。本人によると、血液検査の結果が
悪かったため、増量になったとのことであった。また、妻によると、 1ヶ月半前か
ら毎食前にジュースを作って飲ませているとの話であった。
問 272(実務)
ジュースについて確認したところ、次の食材が含まれているとのことだった。薬
剤が増量になった原因として考えられる食材はどれか。1つ選べ。
1 グレープフルーツ
2 ニンジン
3 ブルーベリー
4 ホウレンソウ
5 ヨーグルト
正解;4
ワルファリンは、ビタミンK依存性凝固因子の生合成を阻害して抗凝血作用を発揮する薬剤であるため、ビタミンKを多く含む食品の摂取には十分な注意が必要である。
ビタミンKを多く含む食品を摂取するとワルファリンの効果が減弱する。
問 273(薬剤)
前問と同じメカニズムによる相互作用の例として、適切なのはどれか。1つ選べ。
1 リファンピシンは、ワルファリンの肝取り込みトランスポーターを阻害する。
2 ミコナゾールは、CYP2C9 を誘導してワルファリンの代謝速度を上昇させる。
3 メナテトレノンは、ワルファリンによる血液凝固因子の生合成阻害作用と拮抗
する。
4 アスピリンは、ワルファリンによる血小板凝集抑制作用と拮抗する。
5 コレスチラミンは、腸管内でワルファリンを吸着することで吸収を阻害する。
正解;3
リファンピシンはワルファリンの代謝酵素であるCYP3A4等を誘導して作用を減弱させることがわかっている。
ミコナゾールはCYP2C9と親和性がありワルファリンの代謝速度を遅延させ、血中濃度を上昇させワルファリンの作用を増強する。
5は、文書としては合っているが前問の相互作用のメカニズムではない。
問 276−277
69 歳男性。 7 年前から高血圧と糖尿病のため、エナラプリルマレイン酸塩、メトホルミン塩酸塩及びグリメピリドを服用している。
これまで特に問題なく過ごしていたが、最近、動悸を感じるようになり病院を受診した。心電図から心房細動と診断され、以下の薬剤が追加処方された。
(処方 1 )
ベラパミル塩酸塩錠 40 mg 1 回 1 錠( 1 日 3 錠)
1 日 3 回 朝昼夕食後 7日分
(処方 2 )
ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩カプセル 75 mg
1 回 2 カプセル( 1 日 4 カプセル)
1 日2 回 朝夕食後 7 日分
なお、患者の身体所見及び検査値などは次のとおり。
身長 176 cm、体重 72 kg、血圧 148/93 mmHg、体温 37.0℃、
心拍数 161 回/min(不規則)、呼吸数 15 回/min、
BUN 21 mg/dL、Scr 1.7mg/dL、Ccr 42 mL/min、AST 14 U/L、ALT 16 U/L
問 276(実務)
この患者の薬物治療に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。
1 処方 1の主目的は、血圧を十分に低下させることである。
2 脈拍が不規則なので、プロプラノロール塩酸塩の処方を提案する必要がある。
3 処方 2 の代替薬の 1つにリバーロキサバンがある。
4 処方 2は心原性脳梗塞の予防目的で処方されている。
5 PT₋INR 値が 2.0~3.0になっているか、モニタリングが必要である。
正解;3 4
ベラパミルはCa拮抗薬ではあるが、頻脈性不整脈の適応により使用される医薬品であるのでこの症例では、血圧の低下を目的とした処方では無いことが推測される。
プロプラノロールはβ遮断薬であり、糖尿病薬服用中の患者には慎重投与である。低血糖症状をマスクしたり、低血糖時の血統上昇を阻害する事があるので医師に提案する薬剤としては不適である。
ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸は中等度の腎機能障害患者では、減量が必要で慎重な投与が必要な医薬品である。Ccr30~50mL/minの場合は、1回150mgから110mgへの減量をする必要があります。
リバーロキサバンは肝代謝を主代謝経路とする薬剤なので腎機能障害患者に対して代替薬として提案することは適切である。ただ、一部は未変化体のまま腎排泄される(ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸に比較して腎排泄率は低い)ので同様に減量などの注意は必要である。
また、ベラパミルとダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸は相互作用が知られており併用によりダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸の血中濃度が上昇することがわかっているため、リバーロキサバンを代替薬とすることが多い。
問 277(薬剤)
薬剤師は、処方 2 について減量を考慮すべきと判断した。その理由として適切なのはどれか。2つ選べ。
1 ベラパミル塩酸塩との併用により、P₋糖タンパク質が阻害され、消化管吸収が
増大するため。
2 メトホルミン塩酸塩との併用により、尿細管分泌が抑制され、血中からの消失
が遅延するため。
3 腎排泄能力の低下により、血中からの消失が遅延するため。
4 グリメピリドとの併用により、CYP₂C₉ による代謝が低下し、血中からの消失
が遅延するため。
5 肝代謝能力の低下により、血中からの消失が遅延するため。
正解;1 3
ベラパミルはP₋糖タンパク質を阻害するため、ダビガトランの消化管吸収を増大させて血中濃度を上昇させることにより、抗凝血作用が増強することがあります。