48日目 糖尿病と国家試験
48日目 第10週3日目
代表的な8疾患である、糖尿病に関する過去の国家試験に出題された問題から、薬局実務実習で実習生に習得してもらいたいパフォーマンスレベルを把握します。
糖尿病;1型糖尿病、2型糖尿病、妊娠糖尿病、その他の糖尿病 に分類される。
また、糖尿病はその疾患の特徴として腎機能障害や末梢神経障害などの合併症が多いため、合併症に関する知識を習得させることも実務実習では重要となってきます。
【第100回薬剤師国家試験】
問185
60歳男性、身長172cm、体重72kg。10年前に2型糖尿病と診断され、経口血糖降下
薬を内服していた。
血圧136/86mmHg、脈拍70/分。血清カリウム値4.2mEq/L、
血清クレアチニン値0.7mg/dL、空腹時血糖値126mg/dL、HbA1c7.4%(JDS)、
血清総タンパク7.4g/dL、血清アルブミン4.0g/dL。
尿中アルブミン値(クレアチニン補正) 1回目120mg/g、2回目80mg/g
(基準値30mg/g 未満)。
この症例に関する記述のうち、正しいのはどれか。1つ選べ。
1 糖尿病の治療を行っても、腎機能の障害は改善しない。
2 降圧目標は140/90mmHg であり、本症例では達成されている。
3 尿細管障害がアルブミン尿の原因である。
4 タンパク尿のため、浮腫が出現している。
5 レニン-アンギオテンシン系の活性を低下させることにより、腎障害の進行を
抑制できる。
正解;5
糖尿病性腎症を合併している症例のため、糖尿病の治療を継続的におこなうことにより腎機能の改善が期待できる症例です。
糖尿病患者の降圧目標は、130/80mmhg以下とされています。また、糸球体が障害をおこすことによりアルブミン尿が出現する。
この患者の検査結果よりタンパク尿では無いので浮腫は出現していないとおもわれる。血清総タンパク(基準値:6.5〜8.0 g/dL)及び血清アルブミン(基準値:3.7〜4.9 g/dL)は、基準値範囲と判断できる。
問218-219
77歳男性。163cm、65.0kg、body mass index(BMI)24.5。現在、糖尿病治療のため、下記の薬剤を服用している。
グリメピリド錠3mg 1回1錠(1日1錠)
1日1回朝食後
ボグリボース錠0.3mg 1回1錠(1日3錠)
1日3回朝昼夕食直前
メトホルミン塩酸塩錠250mg 1回1錠(1日2錠)
1日2回朝夕食後
これまで、HbA1c(国際標準値)は7.0%前後で推移していたが、最近になり
9.0%まで上昇したため、以下の処方が追加された。
(処方)
アログリプチン安息香酸塩錠25mg 1回1錠(1日1錠)
1日1回朝食前14日分
問218(実務)
上記の追加処方に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。
1 低血糖のリスクは、特にスルホニルウレア剤との併用により増加するおそれが
ある。
2 併用により低血糖が起こった場合には、砂糖を摂取するように患者に伝える。
3 ボグリボースとの併用は禁忌なので、疑義照会が必要である。
4 飲み忘れを防止するために、食後服用への変更も可能である。
正解;1 4
この患者は、ボグリボースを服用中のため砂糖ではなくブドウ糖の摂取が必要である。また、アログリプチンとボグリボーズは併用禁忌ではありません。
問219(物理・化学・生物)
糖尿病では血糖値の異常がおこる。グルコース代謝に関する記述のうち、正しい
のはどれか。2つ選べ。
1 血糖値は、筋肉から血中へグルコースが放出されることにより、維持される。
2 インスリンは、血液から筋肉へのグルコースの取り込みを促進させ、血糖値を
低下させる。
3 筋肉中で嫌気的代謝により生成した乳酸は、肝臓に運ばれてグルコースに変換
される。
4 飢餓時には、肝臓でタンパク質が分解され、生成したアラニンが筋肉へ運ばれ
てグルコースに変換される。
5 筋肉でのグリコーゲンの合成と分解は、肝臓とは異なり、同一の酵素によって
触媒される。
正解;2 3
生体の血糖コントロールは、肝臓や腎臓からグルコースを放出することで行われている。また、飢餓時には、筋肉でタンパク質が分解され、生成したアラニンが肝臓に運ばれて糖新生によりグルコースに変換される。
グリコーゲン合成に関わる酵素は、グリコーゲンシンターゼ
また、グリコーゲン分解に関わる酵素は、グリコーゲンホスホリラーゼである。
【第101回薬剤師国家試験】
問258-259
62歳女性。3年前に糖尿病と診断され、処方1及び処方2で治療中。最近、手足に痛みやしびれ感があるため処方3が追加となった。
(処方1)
メトホルミン塩酸塩錠250mg 1回1錠(1日3錠)
1日3回朝昼夕食後14日分
(処方2)
ピオグリタゾン錠15mg 1回0.5錠(1日0.5錠)
アログリプチン安息香酸塩錠25mg 1回1錠(1日1錠)
1日1回朝食後14日分
(処方3)
プレガバリンカプセル75mg 1回1カプセル(1日2カプセル)
1日2回朝夕食後14日分
問258(実務)
処方3の服薬指導として適切なのはどれか。2つ選べ。
1 痛みやしびれ感の改善があれば、薬をやめても構いません。
2 アルコールは薬の作用に影響しますので、控えてください。
3 ぼんやりしたり、めまい、意識消失などが起こることがあります。
4 血液を固まりにくくし、血のめぐりを良くすることで痛みをやわらげます。
正解;2 3
プレガバリンは、興奮性の神経伝達物質の放出を抑制することで神経障害性疼痛を改善する医薬品です。また、急な休薬により離脱症状(不眠、悪心、頭痛、下痢、不安及び多汗症等)が現れる医薬品であるため徐々に減量する(1週間以上かけて漸減する)必要があります。
問259(薬理)
処方1~3の薬物の作用機序として正しいのはどれか。2つ選べ。
1 アルドース還元酵素を阻害し、末梢神経障害を改善する。
2 AMP 依存性プロテインキナーゼを活性化し、肝臓での糖新生を抑制する。
3 ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体α(PPARα)を活性化し、インスリン
抵抗性を改善する。
4 オピオイドμ受容体を刺激し、鎮痛作用を示す。
5 ジペプチジルペプチダーゼ-4(DPP-4)を阻害し、インクレチンの作用を増強
する。
正解;2 5
1 エパルレスタットの作用機序
2 メトホルミの作用機序
3 ピオグリダゾンの作用機序ですが、受容体のサブタイプがγ(PPARγ)
4 麻薬性鎮痛剤の作用機序
5 アログリプチンの作用機序
PPAR は肝臓・腎臓・心血管・消化管などに分布するPPAR-α に加えて,骨格筋に広く分布するPPAR-δ(β)型,および脂肪組織や脳に分布するPPAR-γ の三つのサブタイプが知られている。
糖尿病治療薬のピオグリタゾンはPPAR-γ 作用を有し,PPAR-α は高脂血症薬のフィブラート系薬剤であり,ベザフィブラートはPPAR-α と-δ の両方の作用を持っている。
【第102回薬剤師国家試験】
問340
60歳男性。数年来、糖尿病治療のためクリニックを受診している。このたび、糖尿病の病態悪化の傾向があり、現在服用中の薬剤に1薬剤が追加され、処方箋をかかりつけの薬局へ持参した。薬剤師がお薬手帳で現在服用中の薬剤を確認し、窓口で患者と以下の会話があった。
(現在服用中の薬剤)
ボグリボース錠0.3mg 1回1錠(1日3錠)
1日3回朝昼夕食直前28日分
メトホルミン塩酸塩錠250mgMT 1回1錠(1日2錠)
1日2回朝夕食直前28日分
(薬剤師と患者との会話)
患者:糖尿の薬がまた増えました。
今度の薬も1日3回、食前に飲む必要がありますか。
薬剤師:新しく出た薬は1日1回ですよ。
食前に飲み忘れた時は食後でもいいですよ。
患者:どんな薬なのですか。注意することはありますか。
薬剤師:尿中に余分な糖を出すことで効果を発揮する薬です。
今まで通り、低血糖症状に気をつけてください。
それに追加して排尿時の違和感にも注意してください。
尿量が増えることで喉が渇きやすくなるかもしれません。
その時は水分補給を忘れないでください。
上記の会話から推測される糖尿病治療薬はどれか。1つ選べ。
1 グリベンクラミド
2 シタグリプチンリン酸塩水和物
3 ピオグリタゾン塩酸塩
4 イプラグリフロジンL-プロリン
5 ミチグリニドカルシウム水和物
正解;4
薬剤師の指導説明内容より、SGLT2阻害剤が追加になったと推測できる。
1 インスリン分泌促進剤 SU剤
2 DPP-4阻害剤
3 インスリン抵抗性改善剤 チアゾリジン薬
4 SGLT2阻害薬
5 即効型インスリン分泌促進薬 グリニド薬
【第104回薬剤師国家試験】
問200−201
50 歳女性。身長160 cm。体重72 kg。地域の健康フェアで指の穿刺血液による空腹時血糖値とHbA₁c 値の測定を行った。測定結果は空腹時血糖値が95 mg/dL、HbA₁c 値が5.6%(NGSP 値)であった。後日、女性は近隣の薬局に測定結果の相談に訪れた。女性の仕事はデスクワーク中心で、職場までは自家用車で通勤しており、運動不足であった。また、洋菓子と果実ジュースが好きで毎日間食し、ワインを毎晩グラス1 杯飲んでいた。
問200(実務)
相談を受けた薬剤師の対応として適切なのはどれか。2つ選べ。
1 空腹時血糖値が糖尿病の診断基準を超えているので、すぐに受診するよう伝え
た。
2 HbA₁c 値が糖尿病の診断基準を超えているので、すぐに受診するよう伝えた。
3 運動不足を解消するよう助言した。
4 間食を少なくするよう助言した。
5 食後高血糖の可能性もあるので、今後毎日、食事をした後にHbA₁c 値を測定
することを勧めた。
正解;3 4
この症例では、運動不足とそれによる過体重はあるが検査値は診断基準を奇跡的に超えていないので、食事と運動指導をすることが望ましい。ただし将来糖尿病になるリスクが疑われるのでBMIに改善が見られないようなら定期的に血液検査に受診することが望ましい。また、食後高血糖の可能性も十分考えられるので食後血糖値を測定することは有意義である。
HbA1c(NGSP値)6.0%以上であれば糖尿病が疑われる数値
HbA1c(JDS値) 5.6%以上であれば糖尿病が疑われる数値
空腹時血糖値 110mg/dl以上なら詳しい検査をする必要性あり
126mg/dl以上なら明らかな糖尿病型と言えます。
問201(物理・化学・生物)
この健康フェアで行われている血糖値の簡易測定においては、グルコース脱水素
酵素あるいはグルコース酸化酵素が用いられており、検出には酵素比色法及び酵素
電極法が用いられている。今回用いられている血糖値測定法に関する記述のうち、
正しいのはどれか。2つ選べ。
1 グルコース脱水素酵素を用いる血糖値測定法では、マルトースは測定の妨害と
ならない。
2 グルコース酸化酵素を用いる血糖値測定法では、酵素反応によって生じた過酸
化水素が利用される。
3 グルコース酸化酵素を用いる酵素比色法では、波長215nm の光が用いられる。
4 グルコース脱水素酵素及びグルコース酸化酵素を用いる血糖値測定法では、指
に付着した果汁中のグルコースが測定の妨害となる。
5 酵素電極法においては、酵素がグルコースと反応した際に酵素自体に生じる電
位差変化を検出する。
正解;2 4
波長は330~350nm(または、330~350nmを主波長とし、405~800nmを副波長とした2波長差)の光で測定する。
GDH酵素電極法;グルコースにグルコースデヒドロゲナーゼを作用させ、FAD、4フェリシアン化カリウムを経て、電位を加え水と酸素を生成する時に生じる電流を計測することによって血糖値を計測する方法